奥羽脊梁山脈の北部に位置する花の山「羽後朝日岳」標高1376mについて、連載紀行文を紹介します。
いつか自分のもっとも好きな山の一つである「朝日岳」について語ってみようと思っていた。
学校を卒業後五年程名古屋で暮らし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスと暇を見つけては名だたる山々を
登ってきた。日本アルプスには色々な、様々な思いがあった。あの頃はただひたすら登り、歩く毎日であった。
もちろん高山植物、樹木、岩石等自然の万物、生物にはあまり興味を持たず歩いていた。山の美しさには感動していたが、其の名前や、植物の性質にまでは気にも留めていなかったのである。
1973年3月田沢湖線の車窓からまだ真っ白な雪を被った山並みを右手に見ながら思った。「奥羽の山並み」この山を
糧に故郷で暮らそう。学校時代に「奥羽の山並み」には朝日岳という名の山さえ知らなかった。あの頃白岩岳に登った時のことが車窓から懐かしく思い出される。ある秋の日曜日、従兄と部名垂沢を遡行していた。初めての沢登である。この沢はとても明るい沢で登山靴でも遡行できる。岩に苔があまり着生していないから滑りにくい。この沢を茸を取りながら朝日岳に向けて歩き出した。この沢の第一の特徴は登山道がないことである。この沢が頂上に一番近い道である。水量も程よい快調な沢歩きが続く。初心者にとっては適当な距離の沢だ。
<立山ウツボグサ>続く。