一瞬吹雪がやむと動物たちの足跡が賑やかに見えるのがせめてもの救いだ。晩秋に真っ赤に実の付けたアズキナシの木の所で引き返すことにした。時折顔を出す太陽に照らされながら快調に飛ばす。小行太沢を目標に再び冬の谷を歩く。松茸山まで一時間半、目的地まで早く着きそうだ。稀に見せる冬の渓。 日の光が行太尾根のブナ、白岩岳のダケカンバの樹々を照らす。行太尾根のブナの樹冠に冬の太陽が降り注ぎモルゲンロートに輝く。 二日前に辿ったスキーのシュプールの傷がわずかに残っている。動物たちもワイワイはしゃぎながら遊んでいる。ウサギ、テン、日本カモシカ、野鳥、タヌキ、本土キツネ等々足跡がとても賑やかである。「パット」ライトが灯るとあちこちで小鳥たちが囀りだす。友達が来たと大喜びしながら道案内をしてくれる。しばらく来なかったので寂しかったんだろう。
小行太沢出会い、雪のブナの尾根をカメラに収め帰路に就く。クロカンのスキーは板幅が狭く、エッジも付いていない。だから下りのほうがバランスをとるのが難しい。斜滑降を多用しキックターンで滑り降りる。森の中を滑降するとなるとかなりの技術が必要となる。深雪であれば雪ダルマは覚悟のうえだ。ウインドクラフトした雪だとなお更危険である尻はあかむくれと思ったほうが良い。ただし最も危険なのが激突だろう。大木にフルスピードで向かっていったらひとたまりもない。その時は、むくれダルマ覚悟で大声を出して転ぶのが一番だ。周りの動物たちはあきれ顔で見ている。クスクス笑っているウサギもいる。熊五郎は眠気を醒ましてのっそりと起き上がってくるだろう。
最終編に続く。